「フェリスなんでしょ、お嬢様じゃん」。そう言われて、うまく返せなかった経験はありませんか。
横浜にある女子大というだけで、なぜか品のいい暮らしぶりまで想像されてしまう。在学生や卒業生にとっては、少し居心地の悪い場面かもしれません。
この記事では、そのイメージがどこから来たのかを、公式資料や国の統計をたどりながら分解していきます。5つの理由を整理したうえで、実際の学費や進路のデータと突き合わせます。
先に結論をお伝えします。「お嬢様」というイメージの大部分は、大学そのものではなく、同じ名前を持つ中高一貫校の評判から生まれています。学費も、平均より高いどころか下回っていました。

フェリス女学院大学が「お嬢様」と呼ばれる5つの理由
お嬢様というイメージは、誰かが一度に決めたものではありません。歴史、宗教、土地、お金、そしてテレビ。それぞれ別の方向から届いた印象が、長い時間をかけて重なっています。
ひとつずつ切り分けて見ていきます。
理由1|1870年創立、日本で最も古い女子教育の歴史
始まりは1870年(明治3年)です。アメリカ改革派教会から派遣された宣教師メアリー・E・キダーが、横浜で女子に英語を教え始めました。
大学の公式サイトは、この歩みを「日本で最も古い近代的女子教育機関」と説明しています。150年を超える時間の厚みは、それだけで格式の印象をつくります。
そこに「女学院」という古風な響きが加わります。明治や大正の空気をまとった名前は、現代の耳には特別なものとして届きます。
同じ流れから生まれた男子向けの教育機関は、のちに明治学院となりました。フェリスという校名は、キダーを支えたアメリカ改革派教会のフェリス父子の名に由来します。
理由2|キリスト教主義と「For Others」という校風
フェリス女学院のモットーは「For Others(他者のために)」です。新約聖書の言葉に由来し、100年以上にわたって受け継がれてきました。
礼拝やチャペルコンサートが日常にある環境は、外から見ると独特です。落ち着いた雰囲気、丁寧な言葉づかい。そうした空気が、上品さのイメージにつながります。
ただし、これは「裕福さ」とはまったく別の話です。キリスト教主義の学校は全国に数多くあり、その多くは家庭の経済力とは関係なく門戸を開いてきました。
「他者のために」という理念は、奉仕やボランティア、社会課題への関心といった形で教育に反映されています。優雅さを目指すための言葉ではありません。
理由3|横浜・山手というブランドの効いた立地
山手という地名を聞いて、洋館や石畳、港の見える丘公園を思い浮かべる方は多いはずです。異国情緒のある高台は、横浜観光の定番でもあります。
フェリス女学院の校舎が山手178番地に建ったのは1875年。その住所は、今も中学校・高等学校が使い続けています。
ここで、見落とされがちな事実があります。
大学のキャンパスも、あの山手にあるのでしょうか。
大学の主な拠点は、横浜市泉区の緑園キャンパスです。相鉄いずみ野線の緑園都市駅が最寄りで、山手からは電車で30分以上離れています。
山手キャンパスは音楽関連の教育などで使われてきた場所であり、大学生の日常の多くは緑園で流れていきます。「山手の洋館街に通う大学生」という絵は、実態とは少しずれています。
理由4|「学費が高いに違いない」という思い込み
お嬢様大学という言葉には、たいてい「学費が高い」がセットでついてきます。伝統校でキリスト教主義で横浜。それだけで高そうに見えてしまう。
この点は数字で確かめられます。記事の後半で、国の統計と並べて検証します。結果を先に言えば、私立大学の全体平均より安いという答えになりました。
理由5|アナウンサーとして活躍する卒業生の存在
テレビ画面に出身大学のテロップが出る。その積み重ねは、想像以上に効きます。
フェリス女学院大学は、アナウンサーとして働く卒業生を継続的に送り出してきました。有名人の出身大学を集めたデータベースでも、アナウンサー職の輩出校として上位に挙げられています。
語学教育に力を入れてきた歴史を考えれば、話す仕事との相性は自然な結果でしょう。とはいえ視聴者の側では、「清楚」「知的」といった画面上の印象が、そのまま大学の印象として保存されていきます。
| イメージの源 | よくある受け取られ方 | 実際のところ |
|---|---|---|
| 1870年創立の歴史 | 格式の高い名門 | 歴史は事実。ただし家庭環境とは無関係 |
| キリスト教主義 | 上品でお嬢様らしい | 理念は「他者のために」。奉仕が中心 |
| 横浜・山手 | 洋館街に通う学生 | 大学の主な拠点は泉区の緑園キャンパス |
| 学費 | 相当高いはず | 私立大学の全体平均を下回る |
| 卒業生の活躍 | 華やかな世界の人が多い | アナウンサー職は多いが、就職先は幅広い |
「お嬢様」の正体は、大学ではなく中高だった
ここからが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
フェリス女学院という名前は、大学と中学校・高等学校で共有されています。同じ学校法人ですが、入試も、生徒層も、進路も、まったく別のものです。
フェリス女学院中学校・高等学校は、横浜共立学園・横浜雙葉とともに「神奈川女子御三家」と呼ばれる完全中高一貫校です。高校からの募集はなく、入学の機会は中学受験だけ。首都圏でも指折りの難関校として知られています。
そして、この中高の生徒たちは、系列大学にほとんど進学していません。
公式資料が示す、系列大学への進学実績
中高が公開している「2026年 大学入試合格状況」を見てみます。2026年4月14日現在の数字です。
現役の合格者数は、早稲田大学56名、明治大学46名、慶應義塾大学42名。東京大学にも7名が合格しています。
では、フェリス女学院大学は何名だったか。現役・既卒を合わせて、わずか1名です。
早稲田56名・明治46名・慶應42名に対し、系列のフェリス女学院大学は1名。出典:フェリス女学院中学校・高等学校「2026年 大学入試合格状況」(2026年4月14日現在)
さらに、実際にどこへ進んだかを示す「2026年3月卒業生 進路一覧」も公開されています。こちらには、フェリス女学院大学の名前が一度も出てきません。
つまり、その年の卒業生で系列大学に進んだ人は確認できないということです。
中高と大学は同じ名前ですが、進路のつながりはほとんどありません。「附属校からそのまま上がってくるお嬢様が多い」という説明は、公式データと合っていません。
世間が思い浮かべている「フェリス」はどちらか
テレビや雑誌で「お嬢様学校」として紹介されるとき、映るのは山手の校舎とセーラー服です。これは中高の風景です。
ところが受け手の頭のなかでは、「フェリス」というひとつの名前に集約されます。中高で積み上げられたブランドが、そのまま大学の看板として使われてしまう。
大学の側からすると、これはやや不本意な話でしょう。もらってもいない評判を背負わされ、そのうえ「イメージと違う」と言われてしまう。ネット上の「恥ずかしい」という声の多くは、このズレから生まれています。
| 比較項目 | フェリス女学院中学校・高等学校 | フェリス女学院大学 |
|---|---|---|
| 入学の機会 | 中学受験のみ(完全中高一貫) | 総合型・推薦・一般・共通テスト利用 |
| 位置づけ | 神奈川女子御三家の一角 | 1965年開設の4年制女子大学 |
| 所在地 | 横浜市中区山手町178 | 横浜市泉区の緑園キャンパスが中心 |
| 主な進学先・進路 | 早慶上理・国公立などの難関大学 | 一般企業への就職が中心 |
| 系列大学への進学 | 2026年の合格者は1名のみ | ― |
学費は本当に高いのか。国の統計と並べて確かめる
「親のお金で行く大学」という言われ方があります。学費が高いから、という理屈です。実際の金額を見てみます。
大学が公表している2026年4月入学生向けの金額は、初年度の年間納付額が1,420,300円。2年次以降は年間1,207,000円です。ほかに同窓会終身会費40,000円が在籍期間中に必要になります。
4年間の合計は、およそ508万円という計算になります。
この数字だけを見ると、たしかに安くはありません。ただ、比べる相手がなければ高いかどうかは判断できませんよね。
私立大学の平均額との比較
文部科学省が2025年12月に公表した「私立大学等の令和7年度入学者に係る学生納付金等調査結果」によると、私立大学の初年度学生納付金の全体平均は1,507,647円でした。
文科系学部だけに絞った平均は1,300,561円です。フェリス女学院大学の1,420,300円は、この2つのちょうど間に位置します。
フェリス女学院大学の初年度納付額142万円は、私立大学の全体平均151万円を下回ります。出典:文部科学省「令和7年度入学者に係る学生納付金等調査結果」および大学公表値(2026年度入学生)
| 区分 | 初年度に納める学費 | フェリスとの差 |
|---|---|---|
| 私立大学 全体平均(令和7年度) | 1,507,647円 | フェリスが約8.7万円安い |
| フェリス女学院大学(2026年度入学生) | 1,420,300円 | ― |
| 私立大学 文科系平均(令和7年度) | 1,300,561円 | フェリスが約12万円高い |
文科系の平均よりは12万円ほど高い。けれど、私立大学全体の平均は下回っている。これが正確な位置づけです。
詳しい数値は文部科学省「私立大学等の令和7年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」で公開されています。
日本学生支援機構の奨学金、高等教育の修学支援新制度、大学独自の給付奨学金が利用できます。「裕福な家庭でなければ通えない」という前提は、いまの制度には当てはまりません。
「お嬢様なのに偏差値が低い」と言われるのはなぜか
検索窓に「フェリス女学院大学」と入れると、「恥ずかしい」「やばい」といった言葉が並びます。背景にあるのは、入試難易度の変化です。
旺文社パスナビの2026年7月1日更新のデータでは、グローバル教養学部の偏差値はBF〜35.0と表示されています。BFはボーダーフリー、つまり合否の目安となる線が引けない状態を指します。
ただ、これをフェリス1校の問題として見ると、話を読み違えます。
女子大を取り巻く環境が、この20年で大きく変わった
武庫川女子大学教育総合研究所の集計によると、4年制の女子大学は1998年に98校でピークを迎えました。2021年には75校まで減り、その後も共学化や統合が続いています。
日本私立学校振興・共済事業団の調査では、2025年度に定員割れとなった私立大学は594校中316校、割合にして53.2%にのぼりました。半数を超えています。
受験生の側の変化も見逃せません。総合大学を選ぶ傾向が強まり、共学の理工系学部では「女子枠」の新設が相次いでいます。女子大にとっては、志願者を奪い合う相手が一気に増えたことになります。
偏差値が示すのは、その年にどれだけ入りにくかったかという一点だけです。授業の質や教員との距離、留学制度の中身は、この数字に含まれていません。
体重計に乗っても健康状態がわからないのと同じで、ひとつの数字が測れる範囲には限りがあります。
入試難易度の情報は毎年更新されます。出願を検討する際は、必ず最新の募集要項と模試判定を確認してください。
2025年、フェリスは1学部3学科9専攻に生まれ変わった
お嬢様というイメージが語られている間にも、大学の中身は動いていました。
2025年4月、それまでの文学部・国際交流学部・音楽学部の3学部5学科が、グローバル教養学部という1つの学部に再編されました。3学科9専攻という構成です。
特徴的なのが、専攻を決めるタイミングです。出願時にも入学時にも専攻を選ぶ必要はなく、2年次の終わりに決めて3年次から所属します。
入学時点で進みたい道が固まっていない人にとっては、2年間の猶予は実用的な仕組みでしょう。
| 改組前(2024年度まで) | 改組後(2025年度から) |
|---|---|
| 文学部(英語英米文学科/日本語日本文学科/コミュニケーション学科) | グローバル教養学部 国際社会学科/心理コミュニケーション学科/文化表現学科 |
| 国際交流学部(国際交流学科) | |
| 音楽学部(音楽芸術学科) |
- 国際社会学科:国際関係専攻/地球社会・環境専攻/国際ビジネス・観光専攻
- 心理コミュニケーション学科:心理専攻/メディア専攻/共生コミュニケーター専攻
- 文化表現学科:ヨーロッパ・アメリカ専攻/日本・アジア専攻/音楽・身体表現専攻
長く続いた音楽学部は、文化表現学科の音楽・身体表現専攻として受け継がれました。演奏だけでなく、身体表現まで含めて学べる形に広がっています。
全学生が自由に履修できるCLA(Center for the Liberal Arts)科目や、ジェンダーとキャリア・デザインと表現・データサイエンスの3つの副専攻制度も動いています。
「多様なコミュニティをつなぐブリッジパーソンの育成」を掲げ、女性へのエンパワーメントを教育と研究の基軸に置いています。優雅さを売りにした学部再編ではありません。
イメージに振り回されないための3つの視点
ここまで見てきたとおり、「お嬢様」という言葉は、いくつもの別々の事実が混ざり合った結果として使われています。受験生や保護者が判断を誤らないために、押さえておきたい見方を整理します。
- 中高の評判と大学の評判を、いったん切り離して考える
- 学費・奨学金・立地は、公式サイトの最新の数字で確認する
- 偏差値ではなく、4年間で何を学べるかで比べる
特に3つ目が抜けやすいところです。学部が再編されたばかりの大学は、数年前の口コミがそのまま当てはまりません。
キャンパスの空気は、行ってみないとわからない部分が残ります。オープンキャンパスや公開講座に足を運べば、ネット上の評判よりずっと確かな材料が手に入ります。
匿名掲示板やSNSの断片的な書き込みだけで判断すると、学費や学部構成といった基本情報すら古いままになりがちです。
まとめ|「お嬢様」の看板は、大学が自分でかけたものではない
フェリス女学院大学がお嬢様と呼ばれる理由をたどると、たどり着くのは大学の外側でした。
1870年から続く歴史、キリスト教主義の校風、横浜・山手という地名。そこに難関中高一貫校のブランドが重なり、メディアがそれを繰り返してきた。看板は、周囲がかけたものです。
一方で、学費は私立大学の全体平均を下回り、2025年には学部構成そのものが刷新されました。イメージと実態は、思っていた以上に離れています。
よくある質問
- Qフェリス女学院大学は今も「お嬢様大学」なのですか?
- A
呼び名としては今も使われていますが、実態を示す言葉ではありません。学費は私立大学の全体平均を下回り、入試も一般入試や共通テスト利用など幅広く行われています。歴史と立地から生まれたイメージが、そのまま残っている状態です。
- Q学費は他の私立大学より高いのでしょうか?
- A
2026年度入学生の初年度納付額は1,420,300円です。文部科学省の令和7年度調査による私立大学の全体平均1,507,647円を下回っています。文科系学部の平均1,300,561円と比べると12万円ほど高い水準です。
- Qフェリス女学院の中高から大学へは進学できますか?
- A
推薦依頼のある大学として系列のフェリス女学院大学も挙げられており、制度上は進学できます。ただし2026年の合格者は1名で、同年の進路一覧にも記載がありません。実際には、ほとんどの生徒が他大学へ進学しています。
- Qキャンパスは横浜のどこにありますか?
- A
大学の主な拠点は横浜市泉区緑園の緑園キャンパスで、相鉄いずみ野線の緑園都市駅が最寄りです。横浜市中区山手町には山手キャンパスがあり、音楽関連の授業やコンサートなどで使われています。中学校・高等学校は山手町にあります。
- Q共学になる予定はありますか?
- A
2026年7月時点で、大学の公式サイトに共学化の発表はありません。一方、全国の女子大では共学化や統合が続いており、1998年に98校あった4年制女子大学は2021年に75校まで減っています。最新の動向は公式サイトで確認してください。
- Qどんな学部・学科がありますか?
- A
2025年4月からグローバル教養学部の1学部体制です。国際社会学科・心理コミュニケーション学科・文化表現学科の3学科があり、その下に9つの専攻が置かれています。専攻を選ぶのは2年次末で、3年次から所属します。

